「mellow」 テレビの1時間ドラマでいいんじゃないの?

mellow(2020年 今泉力哉監督)

「旺文社 英和中辞典」によれば、英単語の“mellow”は「熟している」「豊かで美しい」「柔らかで美しい」という形容詞。日本では音楽を語るときの表現法として「メロウなサウンド」などという使い方をするようになった。良くは知らないが、日本ではジャズのあとクロスオーバーが生まれフュージョンに移行するころにこの言葉を聞くようになったという印象がある。アール・クルーが出てきたあたりだったかな? いずれにせよ、ケニー・Gよりずっと前の話だ。
生花店「mellow」の店主として大好きな花を扱う仕事をしている夏目誠一(田中圭)は独身で恋人もいない。女性ながらラーメン屋を営む木帆(岡崎紗絵)や、自分に憧れのまなざしを向ける中学生の宏美(志田彩良)たちに囲まれながら平穏な毎日を送っていた。
ある日、夏目は常連客の人妻・麻里子(ともさかりえ)から、彼女の夫がいる席で「好きです」と告げられる。また、宏美からも告白を受ける。宏美は中学の後輩の女子から「好きです。付き合ってください」と告げられ、その現場を目撃した別の女の子からも告白されていた。
やがて木帆は建築の勉強のために店をたたんで海外留学に出かけることを、夏目に告げる。夏目は木帆の父親が死ぬ前に自分に託した手紙を仏前に置いて立ち去るのだった……。
夏目とともさかりえ、その夫との公然たる三角関係はいかにも今泉監督らしい。妻に心理的な浮気をされた夫が「あんたは妻を傷つけた」と逆に夏目を非難する展開はやや強引な論理展開だが、見ていて楽しいものがある。花を愛する真面目な青年とラーメン屋を一人でやりくりしている若い女が気持ちを通わせているという設定もマッチングの意外性を見いだせて新鮮だ。タオルを首に巻いてラーメンを茹でる木帆がカッコいいの。そしてなにより、夏目の姪っ子の小学生のさほ(白鳥玉季)が可愛い。彼女は大人の込み入った人間関係を純粋に観察している。このように人と人の相関図をまとめて、ラストをほのぼのと収斂させようという今泉監督の試みは評価できる。
だけどこれ、映画にするほどのストーリーかねぇ? 終盤の恋する男女が手紙を読んで涙するという展開を見ていると、昔の東芝日曜劇場(1時間で一話完結)でいいんじゃないのと言いたくなる。映画は観客が電車に乗って見に来るものだ。見終わったあとに心の中に何かを植えつけて欲しい。
ラストは閉店するラーメン屋の前で男と女が顔を合わせてエンドロール。ごちゃごちゃと余計なセリフがないのはいいけど、もう一段の工夫が欲しかった。そう考えると「ペーパームーン」の調子っぱずれなエンディングは良かったなぁと、筆者は1973年の米国映画に思いを馳せるのだった。

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