フラガール

鉛色の炭鉱町で女たちはフラダンスに人生を賭けた

フラガール(2006年 李相日監督)

昨年6月、蒼井優と山里亮太が結婚した。早いものでもう1年になる。この「フラガール」で蒼井と共演した山崎静代から山里が紹介を受けたというから、人間どこにチャンスがあるか分からない。山里をうらやましいと思いつつ、「なんであいつが美女と?」と嫉妬した人もいるだろう。2人を結び付けた本作は常磐ハワイアンセンター(現・スパリゾートハワイアンズ)創業時のフラダンサーの物語だ。
1965年、福島県の炭鉱町。炭鉱が次々と閉鎖される中、会社はセンターをつくり、地元の女性をダンサーに育成しようとする。集まったのは紀美子(蒼井)や小百合(山崎)ら素人ばかり。東京のSKDダンサーだった平山まどか(松雪泰子)を指導者に迎えてレッスンが始まるが、紀美子はまどかに突っかかり、母親に猛反対されて家出する。親友の早苗(徳永えり)はフラガールデビューを夢みていたが、父親が炭鉱を整理解雇されたため北海道に引っ越し。オープン前のキャンペーン巡業では本番直前に落盤事故の知らせを受けるのだった。
花の咲かない寒々しい景色の中、町や炭鉱作業員は地味な色調で、フラダンサーは艶やか。白黒VS総天然色ともいうべきコントラストが効いている。解読不能の東北弁でまくし立てる吉本(岸部一徳)や早苗を殴った父親を公衆浴場で羽交い締めするまどかなど個性的なキャラが笑わせ、泣かせてくれる。
公開された06年はNHK「プロジェクトX」(2000~05年)の余韻が残っていた時期。大人の反対と冷笑をはね返してハワイアンに挑戦する彼女たちの姿はけなげなプロジェクトとして感動を呼んだ。
東北にハワイを持ってくるという奇抜な事業を会社は社員のために成功させなければならない。一方、女の子たちは明るい未来を求めた。みんな貧しい。だからフラダンスに懸けた。いや、懸けるしかなかった。失敗したら鉛色の町に沈んでしまうのだ。そしてまた、借金を抱えて東京から逃れてきたまどかもここで復活を遂げようとした。
本作は紀美子たちの奮闘物語であると同時に、まどかの再生ドラマでもある。自暴自棄の泥酔い状態で町にたどりつく姿はまさに都落ち。しかも借金取りは執拗につきまとう。若きフラガールも指導者もコミカルな演出の中で、女の意地を存分に発揮し、サクセスストーリーになだれ込む。その爽快感こそがこの映画の魅力だ。
苦労の末にセンターはオープンを迎え、紀美子たちの晴れ舞台に大人は拍手する。まぶしいスポットライトの中で女たちは輝きながら、華麗に舞う。そのさなか、カメラは男たちが山に入る姿に切り替わる。炭鉱から観光に時代は変わった。だが炭鉱作業員は今日も命懸けだ。李監督は山の男の誇りに敬意を払いながらエンディングを盛り上げた。見事な編集だ。男たちの炭にまみれた顔をジェイク・シマブクロのウクレレが洗い流してくれるようだ。

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