ダニエラという女

平凡な男が絶世の美女を手にする方法

ダニエラという女(2005年 ベルトラン・ブリエ監督)

「イタリアの宝石」と呼ばれるモニカ・ベルッチが娼婦を演じた官能ロマンであり、大人のメルヘンでもある。かなり難解だが、考えようによっては独身男への励ましとなる。サックスが奏でる主題歌が夜のネオンに似合っている。
男は宝くじを当てた平凡なサラリーマンのフランソワ(ベルナール・カンパン)。女は飾り窓の美女ダニエラ(モニカ・ベルッチ)。男は「この金が続く限り一緒に暮らして欲しい」と言い、女は「好きなだけ抱いていいけど優しくね」と承諾。2人は同棲し愛の交歓を楽しむ。公開時、ベルッチは41歳。全身から熟れたエロスがしたたり落ちている。
落語の「紺屋高尾」を思わせる夢の物語。落語の主人公と違って男はリッチマンだが、そこはそれ、お約束のオチがある。オチの前に女は消え去り、男が捜すと、飾り窓の中に戻っていた。連れ戻そうとする男に女は言う。「私には別の男がいる」と。別の男はギャングのボスだ。男はボスと話し合い、女を手放すが……。
メルヘンのせいか、ラスト15分はシュールな展開になる。男の同僚たちが部屋に押しかけて踊り狂う。同僚のひとりは女を見て「なんて美しいんだ」と羨望の涙を流し、その同僚に女は濃厚な接吻をする。見ている女性同僚が「やっぱり娼婦ね」と吐き捨てるが、最後はゆるやかなハッピーエンドだ。それにしてもモニカ・ベルッチはすごい。男を陶然とさせる美女でありながら、惜しげもなく裸体を披露してくれる。このサービス精神はどこからくるのだろうか。

筆者は男と恋仲になったダニエラが姿を消し、探してみると、また娼館に戻っていたくだりが気に入っている。人はなかなか今いる幸不幸の領域から抜け出せない。世の中に、次々とダメな男に引っかかる女性がいるのはそのせいだ。
ギャングのくだりは、美女には凶暴なヒモが付きものということだろう。最近はあまり見かけないが、日本でも若いヤクザは美女を連れて街を歩き、見せびらかす。それが彼らのステータスなのだ。相手がギャングであろうとチンピラだろうと、美女を得るには時に命を懸けなければならないということか。

また、女と同僚の接吻は娼婦はすぐに自分を変えられないといういことを暗示している。登場人物のひとりが言うように、娼婦であろうと「美しけりゃいい」のだ。だから美女を得た男は惚れた女が夜の顔を脱ぎ捨てるのを待つしかない。結末の買い物かごを下ろしたダニエラが洋服を脱ぐ場面はその過渡期を表している。

古今東西、美女を得た男は苦労するもの。独身男性を「今日こそ生涯の女を見つけるぞ」と奮起させる快作。風俗嬢と結婚したがる男の気持ちが分かる気がする。

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