「恐怖のメロディ」 人気DJをじわじわと苦しめるストーカー女の狂暴化

人気DJをじわじわと苦しめるストーカー女の狂暴化

恐怖のメロディ (1971年 クリント・イーストウッド監督)

軽い気持ちで女性とエッチしたら泥沼にはまりこんだ――。こんな映画はいくつかある。有名な作品としては87年の「危険な情事」。本作はその16年前に製作された。クリント・イーストウッドの初監督作品だ。
この時代、洋画のタイトルに「メロディ」という文言をつけるのがはやった。「小さな恋のメロディ」(71年、原題は「Melody」)、「暗殺者のメロディ」(72年、「The Assassination of Trotsky」)、「追悼のメロディ」(76年、「LE CORPS DE MON ENNEMI」)など。本作の原題は「Play Misty for Me」で、その意味は映画のストーリーに盛り込まれている。
地方のラジオ局の人気DJを務めるデイブ(イーストウッド)は恋人のトビー(ドナ・ミルズ)に去られて傷心の日々。仕事帰りに立ち寄った行きつけのバーでイブリン(ジェシカ・ウォルター)という女性と知り合い、彼女が自分のファンだと聞いてベッドを共にする。一夜限りのつもりだったが、イブリンが食材を持って自宅に押しかけてきたため、またしてもホットな一夜を過ごすことに。そんな折、トビーが町に戻ってきたため、デイブは彼女とよりを戻そうとする。
イブリンのストーカー行為が始まる。夜間にデイブの自宅前で裸になり、手首を切って狂言自殺。しまいには家政婦をナイフで襲撃するなどエスカレート。警察沙汰になり、イブリンは逮捕されて、デイブは平穏な暮らしを取り戻すが……。
デイブは恋人を失って女日照り。寂しい思いをしている。そこに美女の誘惑だ。据え膳をペロリと完食するのは男の生理だろう。誰も彼を責められない。それでも慎重な彼は情事の際に「俺には忘れられない女がいる」と予防策を張ったが、イカレ女には通用しなかった。イブリンは突然怒鳴りだし、夜中にしつこくドアをノックし、デイブのビジネスランチを引っかき回して大手ラジオ局への抜擢話をつぶす。じわじわ迫る女の“狂人化”は他人事ではない。
スポーツ解説じみた結果論になるが、危険回避のポイントはあった。女がバーで待ち伏せしていたのはエキセントリックな行動だ。本当はこの時点で相手の精神状態を疑うべきだった。いきなり怒鳴り出すイブリンの異常な行動を見て、デイブがすぐに別れなかったのは優柔不断すぎた。女の肉布団に魅了されたのかもしれない。
イブリンが狂言自殺した際に知人の医師を呼び、警察への通報を見送らせたのも失点だ。DJという人気商売の上に、本命の恋人を取り戻したいという思惑から穏便な解決を願ったのだろう。だが、そのせいで逆に深みに引きずり込まれてしまった。「遠雷」の項でも書いたが、女の股ぐらには悪魔が潜んでいるのだ。
本作は最後にもう一段の見せ場が設定されている。やはり女は怖い。男も怖いが、女はもっと怖いよ……。

蛇足ながら

心理学者によると、不倫関係になる前に伏し目がちで「あなたの家庭を壊すつもりはない」と言う女は安全だが、男の目を見据えてこのセリフを吐く女は危険。相手を崩壊させにかかる可能性があるという。彼女たちは自分の逆上しやすい本性を見抜かれないよう嘘をつき、そのことを見抜かれないよう相手を「凝視」することでバリアーを張ろうとしているのだ。なるほどね。

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