ナチと戦う人々、非情の世界
影の軍隊(1969年 ジャン=ピエール・メルヴィル監督)
「仁義」「いぬ」などのジャン=ピエール・メルヴィル監督の問題作。
1942年、ナチス・ドイツに占領されたフランスではレジスタンスが抵抗を続けていた。メンバーのジェルビエ(リノ・ヴァンチュラ)はゲシュタポ本部に連行されるが、すきをついて脱走、抵抗運動に復帰する。彼を待っていたのは組織を裏切った青年の処刑だった。ジェルビエは同志とともに青年を殺害する。
そんな折、同志のフェリックスがゲシュタポに逮捕される。女性闘士マチルド(シモーヌ・シニョレ)が看護師に化けて救出しようとするが失敗。やがてマチルドは逮捕され、ゲシュタポから娘を性の慰み者にされるか、それとも仲間を売るかの選択を迫られるのだった……。
レジスタンス映画というと普通はナチを相手の戦争ものだが、本作は組織内の人間関係がメインだ。仲間を救うためにわざと逮捕される者や弟にも自分の正体を明かさない幹部、裏切り者の殺害などかつての連合赤軍を彷彿とさせる非情さに満ちている。劇中に笑い声はなく、ひたすら重苦しい雰囲気が続く。
ナチの残虐性も描かれている。逮捕されたレジスタンスの闘士は拷問で顔の見分けがつかないほど殴られる。銃殺では囚人を走らせて機関銃を連射し、前方の壁まで到達できたら次の処刑まで生かしておく。ナチの兵士が人命をもてあそんでいるのだ。
ハリウッド映画のようなハラハラの演出も派手なカメラワークもない。地味なエピソードが淡々と続き、それが逆にリアリズムを高めている。
沈着冷静なジェルビエは元は一介の土木技師だが、ナチに侵攻されたためレジスタンスに加わり、裏切り者を処刑する。処刑される側も好きで裏切ったわけではない。だが正義であるレジスタンスにおいてもその行動が戦闘であるかぎり、心を鬼にして処断しなければならない。処刑するほうもされるほうも侵略戦争の犠牲者だ。だからこそ、ただでさえ暗いストーリーがさらに暗黒のぬかるみにはまる。
裏切りといえば、フィリップ・ペタン率いる当時のビシー政権も同じ。1万3000人余りのユダヤ人が逮捕されたベロドローム・ディベール大量検挙事件(42年7月)はこの政権が実行した。ペタンの政治に裏切られたユダヤ人の悲劇は「黄色い星の子供たち」「サラの鍵」に詳しく描かれている。