芸術家? マジックか? それが問題だ!
ツィゴイネルワイゼン(1980年 鈴木清順監督)
1980年のキネマ旬報1位ほか、ベルリン映画祭特別賞などを受賞。斬新な映像とミステリアスなストーリーが映画ファンを魅了した。筆者は公開当時、渋谷に設営されたドーム型テントで見学した。「観客動員5万人」という文言が記憶に残っている。
ドイツ語教師・青地(藤田敏八)と友人の中砂(原田芳雄)、その妻たちの関係を描く。サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」から聞こえる人声について、中砂が「何と言ってる?」と青地に尋ねる場面から始まるが、声とその後のストーリーに因果関係はない。
青地と中砂は旅先で芸者の小稲(大谷直子=2役)と出会い、中砂は帰宅後、小稲とうりふたつの良家の娘・園と結婚。屋敷を訪ねた青地の前で園は乳房を露出し、その後、女の子を出産する。
青地は妻周子(大楠道代)の妹で入院中の妙子から、中砂と周子が仲良く病室に現れたとの話を聞き、2人の関係に疑念を抱く。園が病死し、小稲が幼女の乳母になる。中砂が急死。小稲が亡霊のように青地家を訪れ、中砂の本とレコードを返して欲しいと言うのだった……。
暗い廊下を歩く青地に3本の腕がからんだり、登場人物が脈絡もなく花火を見上げるなど、不思議な演出がちりばめられている。それらの映像に観客は度肝を抜かれ、「鈴木清順監督は何を言いたいのか?」と議論されてきたが、明確な答えは出ていない。
強いて言えば男女関係の危うさだ。青地らが旅先で見かける3人の盲目の門付け。先達の男(麿赤児)と若い女が夫婦だったのに、いつしか女は若い男と深い仲に。男2人は砂浜に半身を埋めて棒切れで殴り合う。
同じように青地は園と情交し、妻と中砂の不倫を疑う。四角関係の妄想にひたり、中砂の亡霊につきまとわれた上に、中砂の「キミの骨をくれ」との言葉が加わるため、観客は「芸術だ~」とひれ伏した。清順マジックに引っかかったわけだが、それでも映像の美しさと物語の面白さは抜群だ。これからも語り継がれる日本映画の白眉である。