陸軍に学んだ山口組の侵略戦争
実録外伝 大阪電撃作戦(1976年 中島貞夫監督)
1960年に大阪で起きた明友会事件を映画化。タイトルの「電撃作戦」は山口組がわずか2週間で明友会を壊滅させたことを意味する。
ヤクザ組織が群立する大阪に1000人の勢力を自称する愚連隊組織の双竜会があった。幹部の安田(松方弘樹)は南原組の高山(渡瀬恒彦)と反目しているが、2人とも神戸の巨大組織・川田組の若頭・山地(小林旭)を敵視。高山は兄貴分の宮武(梅宮辰夫)の指示で山地を銃撃するが、防弾ガラスに阻まれてしまう。
一方、安田はナイトクラブで歌手の松木を連れた川田組長(丹波哲郎)に絡んで乱闘。川田組は全国から集めた助っ人を大阪に投入し、双竜会への“人間狩り”を開始するのだった。
実録ものに不可欠な要素が盛り込まれている。高山が仕える南原親分は小心者のくせに威張り散らし、自分の保身しか頭にない。高山は後先考えず強い者に歯向かったため、兄貴分の宮武からリンチを受ける。ほかのメンバーは手のひらに釘を打たれ、ドラム缶に埋められて火であぶられるなど凄惨な拷問を受ける。
印象的なのが死を覚悟した彼らが泣きながらどんちゃん騒ぎしている最中に、川田組が3人1組の密殺部隊を編成し市内を3分割する作戦会議を開いている場面。愚連隊と巨大ヤクザ、作戦能力の違いが歴然だ。
同じ事件を扱った映画「日本暴力列島 京阪神殺しの軍団」(75年)でも分かるように、この当時、山口組は抗争のきっかけを求めていた。川田組長が絡まれた一件は双竜会つぶしの格好の口実となり、山口組は念願の大阪を手中に収めて全国制覇に弾みをつけた。
山口組は旧日本陸軍そのものだ。3人が1組になるのは中国大陸で八路軍のゲリラと戦った経験を生かしている。抗争のきっかけをつくるのは甲午農民戦争(東学党の乱)で日清戦争を起こし、柳条湖事件で満州事変を起こした策略を思い出させる。さらに言うと南原親分のセリフ「ケンカは数やない。根性や」は東条英機のようだ。軍隊もヤクザも人殺し集団。流血のチャンスをうかがう侵略者という点で同類だ。
ちなみに劇中の歌手・松木のモデルがバタヤンこと田端義夫なのは有名。川田組長が田岡3代目なのは言うまでもない。