飲み会で「ファック・ミー!」と叫んだあの時代
エクソシスト(1973年 ウィリアム・フリードキン監督)
1970年代はある映画がヒットすると同じジャンルの作品が次々と生み出される時代だった。本作は「オーメン」(76年)や「サスペリア」(77年)の先駆けといえる。
イラクで遺跡を発掘しているメリン神父(マックス・フォン・シドー)は悪霊の像を発見して、悪魔との対決を予感する。同じころ米ワシントンに住む女優クリス(エレン・バースティン)の娘リーガン(リンダ・ブレア)に異変が起きる。人前で放尿し、ベッドは大揺れ、顔は醜く変貌。十字架で自分の局部を傷つけるわ、「ファックしろ」と怒鳴るわとやり放題だ。
リーガンは先端医療の検査を受けるが原因が分からず、クリスはカトリックの教会に悪魔払いを依頼。メリン神父とカラス神父(ジェイソン・ミラー)が悪魔に立ち向かうのだった……。
フリードキン監督らしく、前半はイラクの発掘やマリア像への冒涜など、ゆっくりと物語が進む。今の感覚だとまどろっこしいが、70年代の演出法と考えれば懐かしい。
CGのない時代。リーガンの足に貼ったテープをはがして傷口を現出させたり、口元のホースから緑色の液体を放出したりと特殊効果に工夫を凝らした。その甲斐あって「めちゃ怖い」と評判になり、映画は大ヒット。飲み会などで「ヘルプ・ミー!」「ファック・ミー!」と叫んで枝豆を吐き出す物真似もはやり、一種の社会現象となった。
奇怪な行動を取る人を見て「悪魔に乗っ取られた」と考える風習は古今東西に存在する。現代の日本でも「狐が取りついた」と、親族などを殴り殺してしまう事件が起きている。だが今日ではこうした現象は「抗NMDA受容体脳炎」という脳の病気によるものと解明されている。日本では年に1500人が発症しているそうだ。
ただ、本作はオカルト映画だから悪魔が犯人。カラス神父のもうひとつの顔を精神科医に設定しているのは医学では歯が立たない悪魔の所業を強調するためでもあるだろう。
神父は命がけで悪霊退散。解放されたリーガンは聖職者の頬にキスをする。リンダ・ブレアの可愛さと相まって心に残るラストシーンだ。