「実録東声会 初代 町井久之 暗黒の首領」 在日朝鮮人2世のヤクザに大物右翼、自民党副総裁、力道山が絡んだ日本の黒歴史

在日朝鮮人2世のヤクザに大物右翼、自民党副総裁、力道山が絡んだ日本の黒歴史

実録東声会 初代 町井久之 暗黒の首領(2006年 辻裕之監督)

敗戦後の東京で愚連隊からヤクザ組織「東声会」を起こし、構成員1500人を率いた町井久之の半生を描く。後編の「完結編」とDVD2巻で構成され、小沢仁志が町井を演じている。政界と闇社会、スポーツ界の癒着ぶりがリアルで面白い。
町井は在日朝鮮人2世で朝鮮名は鄭建永(チョン・ゴニョン)。大物右翼・玉城誉志人の力を背景に勢力を伸ばし、プロレスラーの竜道山(小西博之)、自民党副総裁の広木伴和などの知遇を得る。実在の人物と照らし合わせると、玉城はロッキード事件で注目された大物右翼の児玉誉士夫、竜道山は戦後のヒーロー力道山、広木は自民党党人派の大野伴睦と考えていいだろう。
注目は町井と竜道山との関わり合いだ。竜道山は当初「俺は日本人だ」と言い張るが、町井を信用するや自分が在日同胞であることを明かす。彼が細心の注意で出身を隠す姿が興味深い。
まもなく竜道山は韓国行きを希望。だが町井は、国籍が知られると竜道山が日本の英雄の座から転落すると案じて阻止しようとする。これが前編の見どころだ。城内康伸のルポ「猛牛(ファンソ)と呼ばれた男」によれば、若き町井は朝鮮半島出身者同士の内ゲバに駆り出され、そこには大山倍達(崔永宜=チェ・ヨンウィ)も参加。2人が乱闘に出ていくと、あまりの強さに相手グループは総崩れになったという。
後編では町井は関西と関東のヤクザの対立に巻き込まれる。そんな折、町井の手下が右翼の畑中正厳を銃撃。畑中が関西の加賀組と懇意だったため、町井は指を詰めて加賀組にわびを入れる。
畑中は63年に襲撃された田中清玄がモデル。後年、田中はこの事件を政治絡みとし、「あの時、児玉はもう一度、岸の独裁政権をつくろうとして、河野一郎並びに米国のCIAと組んで動いていた。岸は戦前からの軍をバックにした強権主義者の頭目で、害毒の最たるものだった。軍部的なものの復活ですよ」と語っている(「田中清玄自伝」)。岸は岸信介のこと。岸政権に反対したせいで命を狙われたと田中は言うのだ。
政治の裏側はドロドロ。岸信介は安倍元首相のお爺ちゃんで、東京裁判のおりはA級戦犯として収監されたが、いつしか巣鴨プリズンから釈放され、1957年2月、第56代内閣総理大臣に就任した。A級戦犯が一転して総理になるとは不可思議な話である。
ちなみに田中清玄は1906年生まれ。東京帝国大学に入学し日本共産党の党員として活動するも、治安維持法で逮捕され、獄中で転向声明を発表した。社会主義者から右翼の大物に180度の方向転換をしたわけだ。いろんな人生があるものだと苦笑してしまう。

蛇足ながら

筆者は1980年代後半、編集プロダクションに勤務し、アイドル取材を担当していた。88年のこと、ある新人女性アイドルを起用して月に1回、スポーツや趣味などを体験させる企画を立てた。その一環としてボクシングスタイルで撮影することになり、ツテを頼って都内のボクシングジムを使わせてもらうことになった。
当日、現場に行くとそのジムが入ったビルのネームプレートに「東亜友愛」の文字が見え、「ああ、やはり」と思った。東声会係の事務所が同居しているのだ。ジムの中で女性アイドルの撮影を始めると、いかにもその筋と思える人たちが数人、上の階から降りてきて見学を始めた。汗の匂いが鼻をつくジムの中で20歳にも満たないカワイ子ちゃんが写真を撮られていることを誰かに聞いたのだろう。まだ29歳だった筆者はトラブルが起きないかヒヤヒヤしていたが、彼らは屈託ない笑みを浮かべて行儀よく見たあと、どこかに行ってくれた。
その後、六本木のミニクラブで飲んでいると、一緒にいた週刊誌の記者が「このビルは東声会系の組織などヤクザが複雑に絡んでいるワケあり物件。怖くて誰も手をつけられないんだよ」と教えてくれた。バブル崩壊の余波が続く92年のことだ。
本文でも触れたが、町井については児玉誉士夫との関係が有名だ。その流れで朝鮮戦争の際に町井が半島を視察したとの説が昔からある。ロバート・ホワイティングの著書「東京アンダーワールド」には町井が児玉とともに米軍のヘリに乗って空から朝鮮の現状を見たと書かれていた。
だが他の文献を読むと、この話はフェイクニュースだという。まあ、いくら昔の米軍が何でもありとはいえ、現役の愚連隊ヤクザを軍用ヘリに乗せるとは考えにくい。なぜこのような話が出たのか。町井が勝手に吹聴したのか、それとも誰かが町井を大物に見せるためにでっち上げたのだろうか。
暴力団、つまりヤクザの3分の1は朝鮮半島出身の系列といわれる。本当かどうかはよく知らない。ただ、気になるのは日本のヤクザが売りさばいている覚醒剤の出どころだ。複数の事情通によると、その大半が北朝鮮で生成され、日本に運ばれたもの。つまり北が外貨獲得のために覚醒剤を作っているという。朝鮮半島に近い福岡県の漁師は北の輸送船が海に浮かべたブツを漁船で回収してヤクザに引き渡すアルバイトをしているそうだ。いいカネになるらしい。

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