摩天楼を夢みて

セールスマンの悲哀と憎悪

摩天楼を夢みて(1992年 ジェームズ・フォーリー監督)

アル・パチーノ、ジャック・レモン、ケビン・スペイシーら実力派7人の競演が見もの。舞台はニューヨークにある不動産会社の支社。本社から来た年下の幹部(アレック・ボールドウィン)に「成績の悪いセールスマンはクビだ」と宣告された営業マンたちの生き残り競争が始まる。「ネタ」と呼ばれる顧客情報のお粗末さに不満たらたらのモス(エド・ハリス)と気弱なアーロナウ(アラン・アーキン)らは雨の中、顧客の元に出向く。翌日、事務所が盗難に遭いネタが盗まれた。犯人は誰か……。
全編にセールスマンの悲哀と憎しみがあふれているが、ユニークなのが成績トップのローマ(パチーノ)。世の中に悪態をつきながら客を洗脳していく。筆者の友人に不動産業で成功した人がいて、「夜討ち朝駆けは不要。相手の心をつかめば物件は売れる。報奨金をもらって仕事をサボり、ソープで遊ぶのが楽しいんだ。わっはっは!」と笑っていた。彼が「陽」なら、ローマは「陰」だろう。
物語はレービン(レモン)を中心に進む。かつて凄腕だった彼はスランプに苦しみ、幼い娘は入院している。客に追い返されながら、土砂降りの中で病院に電話し、「明日、支払いをする」と告げる。身につまされるシーンだ。セールスは日本も米国も同じように非情な世界だろうが、健康保険制度もなく、弱肉強食を売りにした米国のセールスマンはそれこそ天国と地獄を味わっているのだろう。
隠れた名作ながら、仕事で悩んでいる人は見ないほうがいい。ますます落ち込んでしまうからだ。なにせ映画の前半は大雨。というか土砂降り。心理学者によると、雨が降ると人は自殺したくなるという。ウェイン・ショーターの物悲しいサックスの音も自殺願望を助長しそうだ。

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