世にも怪奇な物語

Uncategorized

3人の名匠が描くエドガー・アラン・ポーの世界。筆者はフェリーニ作品の少女が今でも怖い

世にも怪奇な物語(1968年 監督:ロジェ・ヴァディム、ルイ・マル、フェデリコ・フェリーニ)

エドガー・アラン・ポーの小説を3人の名匠が映像化したオムニバス作品。ロジェ・ヴァディム監督「黒馬の哭く館」とルイ・マル監督「影を殺した男」はエロスをサディスティックに味付けしている。
「黒馬の哭く館」は残酷趣味で性愛に奔放な伯爵夫人(ジェーン・フォンダ)が思いを寄せる男爵(ピーター・フォンダ)に冷たくされたため、彼の馬小屋に放火。自分のしでかした罪を悔やみつつ、死んだ男爵の黒馬に操られて炎の荒野に向かう話。女が持つエロチックな残酷さが幻想的な映像で表現されている。ジェーン・フォンダとピーター・フォンダという実の姉弟が疑似恋愛の男女を演じているのが興味深い。本作の撮影当時、ジェーン・フォンダはヴァディム監督の妻だった。この作品の撮影はフランス・ブルターニュ地方のロスコフという港町で行われ、ピーター・フォンダはホテルの窓から海を眺めつつ、「イージー・ライダー」(69年)の脚本を書いていたという。
「影を殺した男」の主役ウイリアム・ウイルソンを演じるのはアランドロン。他人の痛みを感じることのない冷酷無比な男が少年期から周囲の人々を暴力的に支配。自分と同姓同名の少年を殺害しようとしたため学校を放校処分となる。青年期には医学生となり、若い娘を全裸にして生きたまま解剖しようとするなどこちらもかなりの残酷人間だ。
美しき貴婦人(ブリジッド・バルドー)にカード賭博で勝ち、彼女のむき出しの背を鞭打つ光景がエロく、かつ痛々しい。だが悪は滅びるという結末。人間はもう一人の自分から逃れることができない。そう考えると、彼を追う”影の男”ウイルソンは人間の心の中にいる良心の分身なのだろう。その昔「11PM」というテレビ番組で藤本義一が語っていたが、網走刑務所の受刑者の句に「わが腕に鬼と仏がすみたもう」というのがあったそうだ。
というわけで、筆者が一番好きなのはフェデリコ・フェリーニ監督の「悪魔の首飾り」だ。英国俳優のトビー・ダミット(テレンス・スタンプ)がカトリック教会製作の西部劇映画に出演するためローマを訪れる。彼は白いボールを手にした少女の幻影に取りつかれており、酒によるトランス状態で破滅に向かう。ニノ・ロータの音楽が怪奇性を高めている。
世の中にはさまざまなホラー映画がある。「四谷怪談」のお岩や「エクソシスト」のリンダ・ブレアも怖いが、筆者にとってこのボールを手にしてダミットに微笑む少女ほどゾッとさせられるキャラはいない。40年前にテレビ放送で見たときも怖かったが、いい年になって本稿を書くため部屋を暗くして再見したら、以前よりも背筋がゾクンとした。もし夜道でこの少女と出会ったら、しばらく精神科に入院するだろう。
フェリーニは「黒い外套に長い髪の悪魔なんて古臭い。麻薬中毒の役者にとっての悪魔は自分の未熟な一面、つまり子供さ」と語り、この少女の役に22歳の小柄なロシア人ダンサーを起用。金髪のかつらをかぶらせて撮影したという。ちなみにダミットの役は当初、英国俳優のピーター・オトゥールを考えていたが拒否されたため、「英国で最も退廃的な俳優」というフェリーニ監督の要望でテレンス・スタンプに決まったそうだ。
フェリーニ作品はカトリックとサーカスを抜きに語れない。ダミットは神父らの案内でテレビ局に向かい、空港ではセピア調の色彩の中、修道女や回教徒などの雑多な映像が。路上は人々の喧噪がせめぎ合う。サーカスを思わせる演出は「フェリーニのローマ」(72年)の原型といえる。狂気めいた人間を演じさせたら右に出る者がいないテレンス・スタンプはさすがの存在感。自分をチヤホヤし愛想笑いをふりまく人々に囲まれて精神の均衡を失っていく様子が見ている者にジリジリと恐怖を与える。
テレビ局とその後の授賞式に登場するのはロボットのような無機質な人間たち。靄の立ち込めた会場で若き女性受賞者たちは判で押したように同じ言葉で謝意を述べ、娘を売り出したい母親はダミットへのあいさつで媚を売る。奇妙なコメディアンは猿の物まねをするが観客はどこかしらけている。そんな中、まるで能面のような顔の美女がデミットに話しかける。
こうした虚飾に満ちた雰囲気によってダミットは狂気を増し、フェラーリを駆って夜の街を疾走する。ここで映画は静から動に転換。クルマは猛スピードで駆けめぐり、霧でかすむ郊外に達する。そこに待っていたのは例の少女だった。
フェリーニは本作を「ここに描いたものは神と悪魔である」と解説している。劇中のダミットは「神は信じないが、悪魔は信じる」とのセリフを吐く。カトリックに招かれた男が悪魔にからめ捕られるとは皮肉な落ち。退廃的空気の中、テレンス・スタンプの演技の真骨頂が味わえる作品だ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました