アウトブレイク

軍事優先が引き起こした大量感染死

アウトブレイク(1995年 ウォルフガング・ペーターゼン監督)

新型コロナの第2波が心配されている。伝染病の恐怖を描いたのが本作だ。
1967年、アフリカ・ザイールで激烈な熱病が蔓延。米軍は現地を爆撃して人間をウイルスごと抹殺する。約20年後、米陸軍のダニエルズ軍医大佐(ダスティン・ホフマン)は再び熱病が発生したとの知らせを受けてザイールを調査。発見されたウイルスが感染・発病したら24時間で死亡する強毒のため、米国に警戒を発するようフォード准将(モーガン・フリーマン)に進言するも却下され、担当チームから外される。
そうした中、ザイールから米国にサルが密輸され、密売人はシーダークリークという町のペットショップに持ち込む。まもなくペットショップの店主が感染。町の住民2600人の多くが感染する。
ダニエルズは軍命に逆らってシーダークリークに向かい、熱病の宿主が何者なのかを突き止めようとする。一方、マクリントック少将(ドナルド・サザーランド)は町を燃料気化爆弾で消滅させようと画策するのだった――。
監督は「U・ボート」のW・ペーターゼン。軍のヘリがメディアのヘリを追い払い、町から逃げようとする市民を銃撃するなどスリリングな演出で楽しませる。パンデミックを軍の謀略と絡めた娯楽作に仕上げたため、上映時間127分はあっという間だ。

ウイルスに侵された母親と幼い娘の涙の“子別れ”の場面や医療の最前線で戦う医師がほんの些細なミスで罹患してしまうなど、感染症治療の深刻な実態が描かれているため、新型コロナ禍を経験した観客はよりリアルな視点で鑑賞できるはずだ。冒頭のザイールの場面で、救援物資が届いたと喜ぶ医師や患者を爆殺するシーンから、グイグイ引き込まれてしまう。さすがはペーターゼン監督だ。動物の密輸業者が検疫所の係員に賄賂を渡してサルを潜り込ませるくだりも「さもありなん」と納得してしまう。

ダニエルズがザイールで見かけた祈祷師は「人間が森を焼くから天罰が下った」と神のお告げを語る。25年前の映画だが、現代にも通じる予言だ。
かつて軍が村を爆撃したのはウイルスを独占して兵器化するための口封じだった。フォード准将らは血清があることを秘匿して被害を拡大させ、さらに大統領命令として市民の大量殺害まで図る。まさに軍事優先。大統領はトランプか?
本作のようにハリウッドはペンタゴンやCIAが悪事を企むストーリーをつくり、市民が権力を監視する重要性を説いてきた。邦画では見かけない展開だ。もし自衛隊が日本国民に爆弾を落とす映画をつくったら、自衛隊に拍手を送るのが大好きな安倍晋三から「こらっ!」とゲンコツが飛ぶだろう。

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