ハスラーズ

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リーマンショックの痛手を「昏睡バー」で巻き返すストリッパーたちの“復讐劇”

ハスラーズ(2019年 ローリーン・スカファリア監督)

女がスケベな男どもからカネを騙し取るストーリーと聞くと、男は総じて難色を示してパスするだろう。だが、ちょっと待ってほしい。この作品は一種の経済物語。事実を基に創作している。
舞台はリーマンショックを直前に控えた2007年のニューヨーク。アジア系ストリッパーのティファニー(コンスタンス・ウー)は貧しい暮らしの中、祖母の面倒を見ていた。少ないギャラの一部を店の経理担当者にピンハネされ、「嫌がらせされたら俺に相談しろ」と言うマネジャーからもカネを要求される。一方、ラモーナ(ジェニファー・ロペス)はポールダンスでがっぽがっぽ稼ぐ売れっ子。彼女の踊りには札束の雨が降る。ティファニーとは大違いだ。
ある日、ティファニーはラモーナと親しくなり、男性客を相手に個別にカネを稼ぐ作戦に加わる。ストリップを見て熱くなった男を店の奥の個室に誘い、目の前でレズ的なダンスを披露するのだ。彼女たちが狙う客はウォール街の金融マン。唸るほどカネを持ち、札束を切って一晩に1万ドルも使ってくれる。こうしてラモーナとコンビを組んだおかげでティファニーの暮らしぶりは上向き、祖母が抱えていた借金を完済。高級車も手にする。
ところが08年になり、あのリーマンショックが吹き荒れる。当然ながら客は激減。店は閑古鳥が鳴いている。悪いことにティファニーは妊娠するが、ラモーナのアドバイスを受けて女児を出産する。だが、その売れっ子嬢のラモーナですらストリップの道を諦め、カジュアル衣料店で売り子をする始末だ。
とはいえ、沈んだままではいられない。2人は新たな手口を考えた。行きつけのバーで金持ちの男に声をかけ、いい気分にさせて例の店の個室に連れ込み、いつもの性的なサービスを披露しながら、泥酔いさせてカネを払わせるのだ。客の支払いはすべてクレジットカード、それもゴールドだ。
この作戦が成功してカネは得た。だが、もっと稼ぎたいとの欲が出てきた。ラモーナが打ち出したのはカモの飲み物に薬を入れて昏睡状態にし、意識朦朧の中、サインをさせて大金をせしめる手口だった……。
劇中でラモーナは金融マンには3つのランクがあると指摘する。最下層は「不正をしないヤツ」で、「中間のヤツは少し汚い手を使うけど限界がある」。一番上のCEOやCFOについては「投資、M&A、ヘッジファンドで儲けてる極悪人」と手厳しい。この極悪人が金融で儲けたあげく、経済を崩壊させたのだということだろう。
この物語はニューヨークで起きた事件。日本人にとっては海の向こうの話なので現実感が薄いだろう。若い世代から「だから何なの?」と苦笑が漏れそうだ。だが13年前にリーマンショックが起き、日本中を右往左往させたのは事実である。
あのときのことを読者は覚えているだろうか。いくつかの週刊誌が「銀座のホステスがジリ貧になり、吉原のソープ嬢にとらばー湯した」という記事を書いた。実際に泡姫に転身した元ホステスのコメントを取った雑誌もあった。
リーマンショックで水商売の女性は困窮した。一般のOLも追い詰められた。昨年、ナイナイの岡本が「コロナが終息したら美人さんがお嬢(風俗嬢)やります」と笑いながら発言したため問題になったが、彼が言った現象は10年前に実際に起きていた。岡本がそうした事実をもとに発言したのは間違いない。
ティファニーたちは客を眠らせ、無理やりサインさせて大金を騙し取ったが、日本でも同じようなことが起きていた。筆者はリーマンショックの前の2000年ごろ、こんな話を聞いた。大手証券会社の社員が東京・湯島で中国人の女に声をかけられ、酔った勢いで彼女の言われるまま歌舞伎町のバーに連れ込まれ、目が覚めたら新宿中央公園でパンツ一枚になって寝ていた。もちろんカバンも財布も盗まれていた。その会社では複数の被害者が出たという。被害者はバーでピンクのカクテルを飲まされたところまでは覚えているが、その後のことは記憶喪失だそうだ。
こうした店を「昏睡バー」と呼び、リーマショックのあと事件としてたびたび報じられるようになった。筆者が最初に聞いた2000年ごろはまだ事件化していなかったと記憶しているから、経済の破綻によって犯罪が増えたのかもしれない。
本作の女たちもリーマンショックを契機に男に一服盛る道を選んだ。経済的ショックが大きいがゆえに騙しの手口が荒っぽくなり、昏睡に至ったわけだ。それは金融資本主義の中でさんざん甘い汁を吸い、そのあげくに経済を破綻させた男たちへの復讐である。
そう考えれば、彼女たちはワルだが、それなりの事情をかかえて悪さをしたのだと少しは理解できるというもの。「こんな世の中にしたあんたたち男が憎い」という心の叫びが聞こえてきそうだ。くどいようだが、リーマンショックがなければ、ここに登場する女たちは普通に踊って、普通にエロいスキンシップをするだけのエンターティナーで終わったかもしれないのだ。昏睡で男たちに被害を及ぼしたが、彼女たちも時代の犠牲者と言えるだろう。ただ、劇中にもあるように昏睡によって稼いだカネで高級な毛皮のコートやブーツを買って踊り狂う姿を見ると、「ええかんげんにせんかい」と言いたくもなる。
本作は日本人が夢のかなたに忘れているリーマンショックの痕跡を、エロっぽいショーを見ながら思い出させてくれる作品だ。

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