処刑遊戯

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行きずりの女を助けるために依頼を引き受けるニヒルな殺し屋

処刑遊戯(1979年 村川透監督)

松田優作と村川透監督は「遊戯」シリーズを3作撮っている。「最も危険な遊戯」「殺人遊戯」(ともに78年)に続く最後の作品がこの「処刑遊戯」だ。大野雄二によるおなじみの主題歌が一段と洗練されて耳に響いてくる。
冒頭。殺し屋の鳴海昌平(松田)はある廃屋に監禁され、暴行を受けている。天井からつるされているところで気絶から目覚め、ロープをほどいて体の自由を回復。近くにあった拳銃を手に取って脱出をはかり、敵の銃撃をかわすが、銃の弾丸は空砲だった。そのため右手を撃たれてしまうものの、肉体の回復力、一瞬の判断力などを評価され、殺しの仕事を依頼される。鳴海を監禁した連中はある特務機関で、そのボスは「長年使ってきた殺し屋を暗殺して欲しい」という。
実は数日前、鳴海は行きつけのバーでピアノの弾き語りをしていた歌手の直子(りりィ)と出会い、男女の関係になっていた。だが直子の運転でドライブの最中に謎のクルマ2台に追跡されて道から転落。クルマから降りた男たちに後頭部を殴打されて気絶し、廃屋に連れ込まれたのだ。鳴海は直子がどこかで監禁されていると思い、彼女を助けるため殺し屋の岡島(青木義朗)を殺す依頼を引き受けるのだった。
脚本は丸山昇一が担当。アラン・ドロン主演の「サムライ」(1967年)に似ている部分がある。おそらく下敷きにしたのだろう。クールな殺し屋が行きずりの女のために体を張る話だ。
優作は前2作でコミカルな演技を披露したが、本作では三枚目を封印してニヒルに徹している。まさにハードボイルド。公開された79年11月は彼がテレビドラマ「探偵物語」(79年9月~80年4月)に出演して視聴者を笑わせていた時期。テレビと正反対のキャラを選んだ結果、シリアスな殺人マシンが完成した。ちなみに筆者はこの「処刑遊戯」を80年の1月ごろ、新宿昭和館で見た。
当時27歳のりりィの濡れ場も色っぽい。ヒット曲「私は泣いています」(74年)で日本中を魅了したハスキーボイスで、青木を相手に切なく悶えるさまが男の股間を熱く感激させた。
08年のこと。りりィが趣味で革細工のバッグなどを作っているというので取材した。「処刑遊戯」の話になり、ベッドシーンが色っぽかったと言ったら、「そうですかぁ」と照れくさそうに笑っていた。「私は泣いています」がヒットした当時の話題になると「そのとき記者さんは何歳でした?」という。「高1でした」と答えたら、顔を伏せて「きゃはっ」という感じの笑いをもらした。年月が経過し、自分が年を取ったことをかみしめるような反応。ハスキーボイスでクールな印象があるため、とっつきにくい人かなと思ったら、意外にも気さくな性格だった。取材した場所は吉祥寺の飲食店で「今日はここでライブをやるんです」と言っていた。そういう彼女も2016年11月に死去。64歳の早すぎる死だった。
本作は鳴海のサングラス&コート姿がおしゃれ。大野雄二のテーマ曲に歌詞をつけてりりィに歌わせたのも成功だし、冒頭の「松田優作」のクレジットも斬新だ。敵を皆殺しにするおなじみの長回し撮影もレベルアップした。鳴海が子供のころ漁師に憧れていたという話も人間的な味付けになっている。3場面で出てくる時計屋の若き主人(森下愛子)が血生臭いストーリーに清涼感を加味した。当時21歳の森下をあらためて見ると、「こんな美女が『サード』で全裸を披露したんだなぁ。ありがたや……」と拝みたくなる。
そして何よりもいいのが鳴海に漂う悲壮感だ。市川雷蔵「或る殺し屋」(67年)、加山雄三「狙撃」(68年)など殺し屋映画は数あるが、優作がやると強さと孤独感が際立ってくる。80年前後の優作は本作を含む「遊戯」シリーズのほかに「蘇る金狼」(79年)、「野獣死すべし」(80年、いずれも村川透監督)など多くのアクション映画に出演したが、この「処刑遊戯」が一番かっこいい。本作の優作ほどクールな殺し屋はいないし、この先も出てこないだろう。
優作は89年11月に急死したが、もし彼が長生きしていたら、今度は岡島役を演じて欲しかった。命を狙われる壮年の殺し屋に扮した優作はどんな悲壮感を醸し出しただろうか。

蛇足ながら

本作のライフルを使って岡島を撃つシーンもそうだが、「遊戯」シリーズの鳴海は暗殺を遂げたあと、路上に落ちた弾丸の薬莢を拾ってその場を立ち去る。証拠隠滅というわけだ。
数年前ある銃器評論家に、殺し屋はなぜ薬莢を持ち去るのかと尋ねたら、「あれはあまり意味がありません」と言われた。「薬莢を持ち去るくらい慎重にやるなら、いっそのこと弾丸も持ち去らないと意味がない」というのだ。どうやら劇中の薬莢処理は殺し屋をプロフェッショナルに見せるための演出のようだ。考えてみると、本作の鳴海は特務機関を皆殺しにするが、薬莢は拾っていない。
ただ、ハリウッド映画「山猫は眠らない」シリーズの狙撃兵トーマス・ベケット(トム・べレンジャー)は狙撃した場所から薬莢を回収して撤退する。これはおそらくどの角度から、どれだけの距離で発射したのかという自分の痕跡を消すためだろう。
銃器評論家の話だと、拳銃で人を殺すのはかなりの度胸を要するそうでこう教えてくれた。
「ヒットマンをやったことがある元暴力団員に話を聞いたことがあります。実銃つまり本物の拳銃を人に向けて引き金を引こうとすると、緊張感と恐怖心から手が左右に大きく震え、わずか数メートルでも命中しなかったそうです」
また、サイレンサーを装着できる拳銃は米国でも限られた人しか持てないように決められているという。ではサイレンサーがなければ銃声を消せないのかというと、そうでもないらしい。
「直径5・6ミリの22口径みたいな小型の弾丸を装填した拳銃を使い、拳銃を持った手にジャケットやコートを掛けて発砲すればサイレンサーと同程度の消音効果があります」
日本で起きた企業家の殺害などはこの消音方法を使った可能性があるそうだ。ただし、5・6ミリ弾は殺傷能力が低いので至近距離から数発撃たないと命を奪えないという。

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