“米国買い”の象徴で敵と味方の攻撃を受ける孤高の刑事
ダイ・ハード(1988年 ジョン・マクティアナン監督)
日本公開は89年2月。もう31年になる。早いものだ。
ニューヨーク市警の刑事マクレーン(ブルース・ウィリス)はロサンゼルスに到着し、別居中の妻ホリー(ボニー・ベデリア)が勤めるナカトミ・コーポレーションのパーティーに顔を出す。ナカトミは日系企業で、パーティー会場のナカトミビルはまもなく完成する予定だ。
マクレーンが別室で休憩している時刻、西ドイツの過激派メンバーのハンス(アラン・リックマン)らテロリスト集団が会場に乱入。ナカトミ社長を殺害し、社員を人質に取る。かくしてマクレーンは単身でテロリストに立ち向かうのだった……。
刑事が悪人を退治する映画は「ブリット」(68年)や「フレンチ・コネクション」(71年)、「リーサル・ウェポン」(87)など数かぎりなくあるが、本作がユニークなのは高層ビルという密閉空間を舞台にしていることだ。テロリストがビルを封鎖したためマクレーンは建物から脱出できず、さりとて外部から応援がくるわけでもない。まるで潜水艦映画のように逃げ道のない閉塞感が観客の胸をジリジリと刺激する。
しかも味方はあてにならない。消防車は途中でUターンして帰っていくし、ロス市警は単なる銃乱射事件だろうと軽く見て、幹部はマクレーンに難癖をつけてくる。テレビ局はスクープが欲しくて個人情報を報道。ホリーの同僚は自分だけ助かろうとし、FBIは戦争気分でヘリからマクレーンを銃撃。孤高の刑事は四面楚歌だ。そんな中、黒人警官のアル(レジナルド・ヴェルジョンソン)だけが無線でマクレーンを励ます。
孤軍奮闘のマクレーンは苦難の連続だ。マシンガンの乱射で足の裏にガラスが突き刺さる。大型通風孔を下り、体に消防ホースを巻いてビルから飛び降りる。ただし「ランボー」(82年)のようなゲリラ戦ではなく、ひたすら撃ち合い、ひたすら逃げる。主人公が手近な物を使って爆発などを起こすゲリラ戦術を披露するのはスティーブン・セガールの「沈黙」シリーズあたりからだろうか。
高層ビルの白人警官と地上の黒人警官が見知らぬ者同士なのに無線機で打ち解けていくのも本作の見どころ。さりげない友情話が一服の清涼剤として観客をなごませる。ラストで両者が抱き合う姿がいい。男たちは互いに名乗らずとも、“戦友”が分かるのだ。
80年代は日本製品が米国市場を席捲し、米国民が日本車をハンマーで破壊する映像がニュースで流れた。バブル期にはジャパンマネーが米国の不動産を買いあさった。本作で襲われるナカトミビルに財宝が眠っているのはそうした事実を皮肉っている。
しかもハンスらテロリストはドイツ人だ。あの大戦で米国と戦ったドイツ人が元同盟国の日本人を殺し、そこに米国人の刑事が巻き込まれるという構図である。ナカトミビルは日本のアメリカ買いの象徴。マクレーンがビルで大爆発を起こす姿に米国民は胸がスッとしたかもしれない。