月に囚われた男

人間とは何ぞや?

月に囚われた男(2009年 ダンカン・ジョーンズ監督)

月を舞台にした近未来SF。核燃料生産企業「ルナ産業」のエンジニア、サム(サム・ロックウェル)はたった一人で月のヘリウムガス採掘基地で働いている。話し相手はコンピューターのガーティだけ。あと2週間で地球に帰還し妻と幼い娘に会えることを楽しみにしていたところ、採掘現場で事故に遭う。命は助かり、基地のベッドで目を覚ますが、どこか釈然としない。事故現場に向かい、事故のときに乗っていた作業車に乗り込む。と、そこには男が倒れている。なんと、自分と同じ顔だった……。
ここから先はネタバレ。未見の人はご注意を。
サムは男を連れ戻り基地内にサム1号と2号が存在することになる。「おまえはクローンだ」と互いを否定するが悲しいかな、実は2人ともクローン人間でありコピー元のサムの遺伝子と記憶を受け継いでいるのだ。その命はわずか3年。1号はまもなく死ぬ運命なのだ。2号は1号を地球に送ろうとする。
本作は人間とは何ぞやを考えさせてくれる。新しく目覚めさせたクローンを犠牲にしようとする2号に1号は言う。「俺たちに人は殺せない」。我々が日々接する殺人事件のニュース。犯人が簡単に人を殺せるのは遺伝子のせいかもしれない。2号は「地球に帰れば娘に会えるぞ」と言う。クローンだが娘への愛情は本物と変わらない。遺伝子の悲しさが漂う場面だ。面白いのは彼らクローン人間もコンピューターのガーティも自己犠牲をいとわない人間的な精神の持ち主として描かれていること。
一方、ルナ社の社員は非人間的だ。その証拠に「救助班」とは名ばかりで、クローンを殺すための銃を携行して乗り込んでくる。皮肉なコントラストだ。
ダンカン・ジョーンズ監督は デビッド・ボウイの息子で、本作で監督デビューした。父の優秀な遺伝子を受け継いだか。

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