パルプ・フィクション

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ろくでなし人間どものストーリーは尻拭き紙とともにトイレに流せ

パルプ・フィクション(1994年、クエンティン・タランティーノ監督)

1994年のカンヌ国際映画祭パルム・ドール、95年の第67回アカデミー賞脚本賞を受賞。映画冒頭の解説によれば「パルプ」とは「質の悪い紙に印刷された扇情的な内容の出版物」だそうだ。
物語の中心人物はギャングのボスのマーセルス(ヴィング・レイムス)の手下、ビンセント(ジョン・トラボルタ)とジュールス(サミュエル・L・ジャクソン)。この2人をはじめ出てくるのはクソ野郎とバカ女ばかりだ。やくざな連中が次々ととっぴな行動を仕掛けるうえに時系列を崩した編集のため、観客は頭の中で場面の流れを修正する。そうやって無意識に物語に引き込まれるから何度見ても面白い。休日に続けて2度見るのもいいだろう。頭の体操として楽しめそうだ。
時間を自然の流れにしてストーリーを追うと、ビンセントとジュールスがマーセルを裏切った若者4人を射殺し、拳銃の暴発で血まみれになった車内を掃除したあとレストランで若い男女(ティム・ロスとアマンダ・プラマー)の強盗に遭遇。その夜、ビンセントはマーセルスの妻ミア(ユマ・サーマン)と出かけ、ミアは麻薬を吸って死にかける。ボクサーのブッチ(ブルース・ウィリス)はマーセルスとの八百長の約束を破ったため命を狙われ……。こうした事象が細切れのつぎはぎになって観客に向かってくるのだ。
血なまぐさい映像とエロい与太話が続く。ジュールスは聖書の一説を暗唱しながら人を撃ち、ときに人を許して引き金から指を離す。ギャングが哲学を語るという展開が斬新で、その哲学によって結末が小奇麗にまとまる。本作以前にはバイオレンス映画でチンピラギャングが人生哲学をとうとうと述べる展開はなかった。タランティーノ監督はこの説教じみた行為を事件と事件の継ぎ目に配置し、しかも観客をうんざりさせない。この脚本を彼は30歳の若さで書いた。まさに天才だろう。

序盤にビンセントが麻薬の売人からヘロインを譲り受け、その場で服用して夜の街をクルマで駆け抜ける場面がある。はっきりとは描かれていないが、走行中のハンドルを握るビンセントはトリップしている印象がある。2014年に東京・池袋で脱法ハーブを買った37歳の男が運転前に服用したため通行人をはね、中国人女性が死亡する事件があった。別の通行人が犯人が車中でよだれを垂らしている姿を撮影し、この映像がテレビで何度も流れたのをご記憶の向きもいるだろう。筆者はこのとき、なぜ帰宅後までドラッグ服用を待てなかったのかと思いつつ、この「パルプ・フィクション」を思い出した。もしかしたら本作のビンセントの気分を味わいたくてハンドルを握ったのかもしれない。
本作を見終えたとき、それほど不快感を覚えないのはわれわれが午前中のファミリーレストランののどかな雰囲気を知っているからだろう。ギャングが主人公の映画でありながら、最後にドンパチではなく、語りで締めくくったわけだが、なんだか自分が劇中のレストランに同席しているような錯覚さえ覚えてしまう。アンディ・ウォーホルは誰もが知っている物を描くのがヒットの秘訣と言ったそうだが、本作は誰もが足を向けるファミレスを終着点としたことが一種の清涼感をもたらした。ビンセントとジュールスがダークスーツから間抜けチックなTシャツ&短パン姿に着替えていたことも大きい。
ハーベイ・カイテルが演じる”掃除人”も面白い。血だらけのクルマの中を見ても動じることなく、コーヒーを飲みながらビンセントとジュールスの2人に適切な指示を出して清掃をさせる。この掃除人のキャラが「ニキータ」のジャン・レノのぱくりであることは誰もが気づくことだ。ジャン・レノは寡黙に作業を行ったが、ハーベイ・カイテルはよくしゃべる。それも飄々とした語り口で、内容はウィットに富んでいる。同じ清掃人でもフランスと米国は違う。というか、タランティーノ監督が意図的に違いを演出したのだろう。こうして見ると、本作は登場する人物のキャラがすべて魅力的だ。幼少期のブッチに父親の形見の腕時計を渡すクーンツ大尉をクリストファー・ウォーケンが演じているのは「ディア・ハンター」(78年)へのオマージュと考えていい。

ネタバレ注意

ストーリーのカギとなるのがビンセントとトイレの関係だ。彼がトイレにこもってミアと別れを告げるべきか思案している最中にミアは麻薬で昏倒。レストランのトイレから戻ると強盗騒ぎだ。トイレに隠れた若者から銃撃されても一発も銃弾を浴びないが、その後、排便中に機関銃を奪われて最期を迎える。
ろくでなしから目を離すと何が起きるか分からないという、ろくでなし映画ならではのろくでなしな喜劇。パルプの作り話だけに、「尻拭き紙と一緒に水に流してしまえ」と若きタランティーノ監督は笑っているのだろう。

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