「ディナーラッシュ」 ギャングが暗躍するイタメシ屋のエゴと血の香り

ディナーラッシュ(2000年 ボブ・ジラルディ監督)

アマゾンプライムをしばらく見ないうちに、この「ディナーラッシュ」が無料見放題になっていた。これはラッキーとばかり、さっそく鑑賞。

やはり面白い。2000年の公開時と同じ満足感、というより細部をしっかり観察できたので、以前より引き込まれた。

物語の舞台はニューヨークのイタリアンレストラン「ジジーノ」。ルイス(ダニー・アイエロ)というイタリア系の男が経営する店だ。ルイスの息子ウード(エドアルド・バレリーニ)がシェフを務めているが、実は腕利きの副料理長ダンカン(カーク・アセヴェド)による美味によって料理評論家を唸らせ、毎晩のように客が殺到している。

一晩に200人以上の客をさばいて商売は順調だが、ルイスは厄介を抱えていた。自らがイタリア系ギャングの出身のため、カーメンという若手のギャングから乗っ取り同然の提携話を持ちかけられているのだ。

まずいことに部下のダンカンはカーメンの闇賭博に大金を賭けて失敗。カーメンは店に押しかけて「カネを払え」とダンカンを脅す。おりしも数日前、ダンカンの借金のせいでルイスの親友の老人が街頭で射殺されたばかりだ。

そんな状況の中、今夜も店の営業がスタートした。ウードは行列ができるほど満員の客をさばきつつ、さまざまなトラブルに直面。父親のルイスに、そろそろ世代交代をして店を自分に任せてくれと懇請するも拒絶される。こうして厨房の料理との格闘が始まるのだ。

潜水艦映画のよう息苦しい画面

冒頭に街なかの風景が出てくるが、映画の9割はレストランの内部。厨房、客席、地下のトイレとカメラは時に人物の背中にへばりつくように軽やかな動きを見せる。

筆者は潜水艦を舞台にした戦争映画が好きだ。あの逃げ場のない密閉空間に不安感を覚え、登場人物についつい感情移入してしまう。

この「ディナーラッシュ」も同様。レストランの内部に人が多すぎるのだ。いつの間にか芋洗い状態の密閉空間となるため、見ていて息苦しい。その息苦しさに急き立てられように次の展開を見つめてしまうという寸法だ。

閉ざされた空間を舞台にしたわずか数時間の群像劇。人々がおいしさを求め、幸福を味わう人気店の裏側は人間のエロとエゴ、暴力による血の香りが漂うカオスなのである。

料理やレストランを題材にした映画が数多くある中、本作の特徴はギャングがしっかり絡んでくることだ。白昼に堂々と人を殺し、店の一角に居座ってルイスを恫喝するギャングたち。こんなヤツが店にいたら、絶対近づきたくないよ。

他の人物のキャラも面白い。料理の腕は一流なのにギャンブルと手が切れず、命の危険にさらされるダメ男のダンカン。包丁の手入れが悪いというだけで若いスタッフをクビにする完璧主義者のウード。昔ながらのヤクザな気質を持ち続ける父ルイス。

厨房はまるで野戦病院のように目まぐるしい。フロアに目を移すとわがままな客、横柄な客ばかりである。要するに主人公のウードを取り囲む環境そのものが、彼の敵ということになる。敵が次々と仕掛けてくるのだ。

スカッと爽やかなラスト

客席では傲岸な美術商の常連客が、受付で待たされたことにネチネチと文句を言い、いかにも美術関係者らしくウェートレスの無知をからかう。サルみたいな顔の女性グルメ評論家の威圧感もうっとうしい。ウェートレスはチップをもらうのに必死だ。停電あり、ダンカンとウェートレスの束の間の逢瀬あり、博学のバーテンダーの客あしらいありと内容は多彩だ。

こうした人物が複合的にもつれ合い、スピーディーな展開が続いた最後にストンと落ちがやってくる。

一見荒唐無稽のように思えるが、スカッと爽やかコカコーラな結末は「そうだよ。それでいんだよ」と言いたくなる開放感を与えてくれる。妙な表現かもしれないが、オシャレな印象を受けた。

あまり書くとネタバレしそうなので、これくらいにしておこう。日本ではそれほど話題にもならずヒットもしなかったが、カネをかけなくても良作を作れるのだというお手本のような映画と言いたい。

ちなみに日本版のキャッチコピーは「秘密の晩餐会へようこそ。」だった。このコピーがお気に召した観客は何人いるのだろうか。筆者はあまりピンとこなかった。というか、ダサい。作品を落としてめている!

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