暗殺のオペラ

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ムソリーニと戦った亡父、誰に殺されたのか?

暗殺のオペラ(1970年 ベルナルド・ベルトルッチ監督)

ベルナルド・ベルトルッチ監督の29歳の意欲作。ホルヘ・ルイス・ボルヘスの小説「裏切り者と英雄のテーマ」が原作だ。ベルトルッチ監督は同じ1970年に「暗殺の森」も発表。トミニク・サンダを起用したこの作品で世界的な名声を得た。

「暗殺のオペラ」は第2次対戦の前にイタリア・レジスタンスが陥った自己矛盾の落とし穴を題材にしている。幻想的なストーリーが特徴だ。ドライファを演じたのは「第三の男」(49年)、「かくも長き不在」(60年)の大女優、アリダ・ヴァリである。

イタリア北部の町「タラ」の駅にアトス・マニャーニ(ジュリオ・ブロージ)という青年が降り立った。アトスは亡き父の名で、彼はそのまま受け継いだ。亡父はその昔、この地でムソリーニ率いるファシスト党と戦ったため暗殺された英雄。土地の人々に敬愛され、町には記念碑も建てられている。だが老人が多いこの町でアトスは馬小屋に閉じ込められ、何者かに殴打されるなど奇妙な経験をする。

彼を町に呼んだのは父の愛人だったドライファ(アリダ・ヴァリ)。アトスは彼女から父アトスの死に不可解な部分があるため真相を突き止めて欲しいと要請される。1936年6月、父は「劇場に入れば命はないぞ」という警告の手紙を受け取りながらこの手紙を開封せず、オペラ劇場で襲撃されたという。そのことを聞かされたアトスは事情を聞くために父のレジスタンス仲間だった3人の老人を訪ねる。

彼らはかつて、父アトスとともにこの地を訪れる予定だったムソリーニの爆殺を計画した。だがムソリーニが来訪を中止したため計画は失敗した。実は何者かが爆殺計画を密告したのだ。こうして父の死の謎が解き明かされるのだった。

緑あふれる田園の光景、色とりどりの花々、深紅のマフラー。劇場で見たときもきれいだったが、一昨年発売されたブルーレイのほうが映像が美しいような気がする。

物語は現在と過去を往復しながら、父アトスの死の真相に近づいていく。同時に民衆が不審な動きを見せ、暗殺の裏に複雑な事情があることを暗示。物語の本質は英雄伝説の裏に虚構が潜んでいるということだ。

本作の怖いのは英雄の実像が小心者で、3人の同志だけでなく、町の人々が真相を知りながら伝説を信奉していること。一種の集団心理だろう。

こうしたみんなでダマされる心理は村落共同体によくある。映画「約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯」(2013年)も同じ。問題のぶどう酒を売った女性も買った村人も、その村人と会った別の女性も事実が歪められたことを認識している。他の村民たちも同じだろう。だが人は不合理な供述を信じてしまう。

本作はラストがポイントだ。先ほどまできれいに整備されていた線路が、ふと気づくと雑草に埋め尽くされる。これは駅が何年も稼働していないことを示している。

老人たちが守る亡霊の町――。

だから若いころの登場人物がいまと同じ老け方なのだろう。

 

★ネタバレ感想 注意!

若きアトスがたどり着いたのはムソリーニに暗殺計画を密告したのが父アトスだったという驚愕の真相だった。父か暗殺を指導しながらも裏切ったのは自分の恐怖心に負けたからかもしれない。いずれにせよムソリーニを殺す好機は失われた。

ところが失敗の張本人である父は自分を殺害してファシストの犯行に見せかけて欲しいと言い出した。抗いがたい後悔の念に苦しんだのかもしれない。かくして父は希望通りに殺害され、伝説の人となった。町の人々はみな、こうした事態の顛末を知っているが、アトスをおとしめることはしなかった。

つまりムソリーニ暗殺を垂れ込んで裏切った男が殺されて英雄となり、人々に顕彰されているという皮肉な現実があるわけだ。

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