BROTHER

ビートたけしは暗黒街のスーパーマン

BROTHER(2001年 北野武監督)

北野武監督のお得意のヤクザ映画だが、舞台の中心を米国に設定したところが斬新だ。

親分を殺され、組織を失ったヤクザの山本(ビートたけし)は弟のケン(真木蔵人)がいる米国ロサンゼルスに向かう。ケンは黒人青年らと麻薬売買を手掛け、元締とトラブルに。山本は持ち前の武闘派根性で敵を倒し、勢力を拡大するが、マフィアに稼ぎの半分をよこせと恫喝される。これをはねつけたため仲間が次々と殺されるのだった……。
ジェレミー・トーマスが製作を手掛け米国ロケを敢行しただけあって、海外を意識した要素がちりばめられている。ヤクザの儀式や腹切り、エンコ詰めは東洋の神秘を好む西洋人には魅力だろう。
北野監督らしい、繁栄から滅亡に至るバイオレントな構成で大量の血が流れる。英語もしゃべれない異邦人があっという間に暗黒街で頭角を現すという出来すぎなサクセスストーリーだが、この監督の演出にかかると不思議と違和感を感じさせない。
北野バイオレンスの特徴は主人公のスーパーマンぶりにある。たけしは小柄な体形だが、めっぽう強い。本作では黒人の大男の目を潰し、南米人を鉄拳で気絶させる。
銃を構えれば照準も定めていないのに全弾命中。至近距離で腹に被弾しながら、すぐに回復だ。マカロニウエスタンのように敵に捕まりリンチでボコボコにされるヘマはしない。全滅の前に泣きながらどんちゃん騒ぎをする東映ヤクザ映画と違い、「みんな死ぬぞ」と愉快そうに笑う。この超人哲学が面白さを際立たせている。そもそも「HANA-BI」(98年)にしろ、「アウトレイジ」シリーズ(10年~)にしろ、主人公ビートたけしは常に超人の強さで構成されているのだ。
海外を意識した点をもうひとつ。ネタバレになるが、山本はマフィアのボスの拉致に成功するも、彼を殺さず解放する。こういう場合、日本のヤクザ映画だとボスは恩義を感じて報復はせず、むしろ義兄弟の杯を交わすものだが、マフィアは山本に銃弾を撃ち込む。この米国人のボスと劇中の親分(渡哲也)の対比こそ東西のメンタリティーの違いだろう。北野監督は西洋のヤクザこそが、仁義もへちまもない非道・非情の世界だと言いたいのかもしれない。

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