「フューリー」 戦車好きを興奮させる欧州戦線、シャーマンvsタイガーⅠ型の激突!

戦車好きを興奮させる欧州戦線、シャーマンvsタイガーⅠ型の激突!

フューリー (2014年 デビッド・エアー監督)

戦争映画ファンには戦車が出てくると大興奮する人がいる。実は筆者もその一人。小学生のころはひたすら田宮模型(当時)のプラモ作りに励んだ。戦艦大和も零式戦闘機もメッサーシュミットも作ったが、戦車のキャタピラーが回転し畳の上に積んだ本や積み木を乗り越えていく雄姿に勝るものはない。一番大きな戦車を作ったのはソ連のT‐34だった。だが、今でもやはりドイツ戦車のほうがかっこいいと思う。筆者のお気に入りはパンサーだった。本作では「ティーガー」と呼ばれるタイガーⅠ型戦車が暴れまくる。
1945年4月のヨーロッパ戦線。米英などの連合軍がドイツ戦車に圧倒される中、コリアー(ブラッド・ピット)らのシャーマン戦車4両は敵軍の通過が予想される十字路の保持を命じられる。途中、戦車1両を失うも小さな町を制圧。ここで束の間の安息を味わい、新兵のノーマン(ローガン・ラーマン)はドイツ人美女エマ(アリシア・フォン・リットベルク)と性の初体験を。だがその数分後、砲撃を浴びてエマは死亡する。
戦車は傷心のノーマンを乗せて進み、砲撃を受ける。敵は圧倒的な強さを誇るティーガーだ。コリアーらの3両は反撃を開始。砲弾は敵戦車に命中するが、分厚い鉄板に跳ね返され、2両のシャーマンは砲塔を吹っ飛ばされて大破。コリアーは単独で勝負を挑み、敵を撃退する。1両だけ生き残ったコリアーの戦車は十字路に到着するが、地雷を踏んで立ち往生。そこに敵の大軍が押し寄せるのだった……。
戦車が暴れ回る映画は「鬼戦車T―34」(64年)や「バルジ大作戦」(65年)、「プライベート・ライアン」(98年)、「ホワイトタイガー ナチス極秘戦車・宿命の砲火」(2014年)など数多くあるが、1対1の戦闘でシャーマンとティーガーの実力差をここまで描いた作品は珍しい。敵弾を受けたシャーマンの砲塔が宙を舞う姿はまるでカブトガニの空中遊泳。無残だ。
大砲の弾にびくともしない敵に勝つには弱点の後部を狙うしかないため、コリアーのシャーマンは戦闘機のように回り込んで相手のバックを取ろうとする。俯瞰(ふかん)撮影のおかげで戦車2両の位置関係が分かりやすい。
終盤の攻防戦はご都合主義な面もあるが、前半は顔から剥がれた皮膚やブルドーザーで埋められる死体の山、ナチ親衛隊によって縛り首にされたドイツ国民など戦争の悲惨さが描かれている。
本作の特徴はコリアーをチョイ悪な指揮官として描いていること。敵兵、とくにナチス親衛隊(SS)を憎み、若きノーマンにドイツ兵捕虜の射殺を命じる。ノーマンが理性の崖っぷちで逡巡すると、彼を羽交い締めして回転弾倉の愛銃を握らせて射殺。エマを目の前にして、ノーマンに「おまえがヤラなきゃ俺がヤる」と強姦をちらつかせる。コリアーは無法ぶりも発揮する兵士である。善し悪しは別として「プライベート・ライアン」のミラー大尉(トム・ハンクス)と大きく違うキャラ設定だ。ミラーは捕まえた捕虜を解放したが、コリアーは殺害で私憤を晴らす。エマとノーマンの情事が彼女のほうから寝室に誘う和姦であることにホッとさせられる。
戦争映画は野原や森が続くものだが、本作はエマのアパートの場面が入ることで米国人とドイツ人の人間同士の皮肉な対立がリアルに感じられる。しかも今しがた抱き合った美女が数分後に死亡。そのことが戦争の悲劇性を高めているように思えるのだ。
ちなみにノルマンディー上陸作戦は44年6月6日に決行され、パリ解放は同年8月。ヒトラーは翌45年4月30日に自決した。本作はフィクションだが、第2次世界大戦の欧州戦線における末期の戦闘を描いたことになる。

蛇足ながら

ティーガー戦車は全長8.45㍍で重量は57㌧。車体前面の装甲は100㍉、側面と後面装甲の厚さは80㍉。砲塔前面防盾は120㍉もあった。これではシャーマンの砲弾を浴びて平然としているのも当然だ。
これに対してシャーマンは全長5・84㍍で重量30㌧。車体前面の装甲は51㍉とティーガーの半分の厚さしかなかった。横綱と幕下の取り組みと言えるだろうか。主砲の口径はシャーマンの75㍉に対して、ティーガーは88㍉である。

ネタバレ注意

結末は十字路での攻防戦。乗員わずか4名の戦車が300人のドイツ兵をきりきり舞いさせるという空想的な展開だ。邦画の「十三人の刺客」(2010年)を思い浮かべてしまう。
コリアーは敵兵の死体を使った小細工の罠を仕掛け、大砲と機関銃でゲリラ的に応戦。なかなか死なない。銃撃戦の最中にドイツ側の狙撃兵まで登場。シャーマン戦車によるだまし討ち、敵の対戦車砲、狙撃兵の一撃、お決まりの弾薬不足と、艱難辛苦打ち耐えつつも米兵は戦意高揚のハイテンションだ。
ティーガーとの戦闘では相手の照準に入っているはずなのに、どういうわけか敵がなかなか撃ってこないため一撃必殺でこれを仕留める。両場面とも話ができすぎている感があるが、まあエンターテインメントなのだから誤差の範囲と受け止めよう。あまり厳格に見てはいけない。

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