バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

復活を目指す初老の男優が戦う“もう一人の自分”

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) (2014年 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)

 

マイケル・キートンが自己の境遇を演じたと話題になった作品。第87回アカデミー賞で作品賞など4部門に輝いた。
俳優のリーガン(M・キートン)は20年前にスーパーヒーロー映画「バードマン」で一世を風靡したが、今は落ち目の三度笠。実力を証明するためにブロードウェーの舞台を企画した。だが、稽古中の事故で助演男優がマイク(エドワード・ノートン)に代わり、薬物使用の過去があるの娘サム(エマ・ストーン)とはしっくりいかない。恋人から妊娠を告げられ、元妻のシルヴィア(エイミー・ライアン)は冷たい。ニューヨーク・タイムズの女性評論家タビサ(リンジー・ダンカン)はレビューも見てないのに「芝居をぶち壊す」と挑戦的だ。
そんなリーガンを、もう一人の自分が「バカにされて笑われる。それがおまえだ」とこき下ろし、バードマンの姿になって勇気と自信を粉砕しようとする。本番を迎え、リーガンは芝居用の銃を実銃に取り換えるのだった……。
特徴は場面の継ぎ目のない編集だ。カメラが長回しのように登場人物を追いかける。ドラム主体の乾いた音楽も秀逸。言葉の応酬がスリリングで、無駄なセリフはひとつもない。
物語の主軸は初老男の苦悩だ。リーガンは「バードマン」という変身ヒーローの役者にすぎない。そのため演劇界では格下に見られている。「バットマン」で名を馳せたM・キートンの実像に近い。そのリーガンが舞台という新境地で蘇ろうとするが、マイクは口答えばかり、サムとはマリフアナの件で口論。元妻にも軽くあしらわれ、バードマンの悪意の囁きもあって自暴自棄に追い込まれていく。復活を目指す男は周囲が敵だらけ。リンジー・ダンカンの高慢ちきな演技が特に素晴らしい。
われらサラリーマンも「自分は今まで何をしてきたのか」「このままの生き方でいいのか」と自分の歴史を疑うことがある。過去の成功体験に固執して自分を追い詰める人も少なくない。リーガンはわれわれの代表であり、目の前に立ちふさがる内なるバードマンと戦っている。だから妄想にかられて暴れ、観客は彼に自己を投影するのだ。
ラストはバードマンと決別するリーガンの姿。人間の幸福は心の持ちようで決まる。高杉晋作は「おもしろきこともなき世をおもしろく」と詠んで力が尽き、野村望東尼(もとに)の結句「すみなすものは心なりけり」に「面白いのお」と呟いて29歳の命を閉じた。
自信を回復して窓枠を越えた父と、父を探して空を見上げる娘。彼女のブルーの瞳に何が映ったのかは分からない。ただ、「あはは」という無邪気な笑い声が大団円の余韻を残すのだ。

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