レッド・オクトーバーを追え!

米ソが腹の内を読み合う奇跡の戦争回避

レッド・オクトーバーを追え!(1990年 ジョン・マクティアナン監督)

トム・クランシーの原作を「ダイ・ハード」(88年)のジョン・マクティアナンが監督した。「原潜が空を飛ぶ」と話題になった潜水艦映画の決定版。ラストの魚雷戦は迫力満点だ。
東西冷戦の時代。ソビエト海軍のラミウス大佐(ショーン・コネリー)は最新鋭の原潜レッド・オクトーバーの艦長として出撃する。名目はキューバ沖での演習だが、真の目的は原潜とともに米国に亡命することだ。一方、米側はこの原潜が無音の推進装置を装備、つまり音を一切出さずに海中を潜航できることを知って動揺する。もし攻撃に使われたら、米国はミサイルの発射に気づかないまま本土を爆撃されてしまうのだ。米国としてはすぐにレッド・オクトーバーを発見し、撃沈しなければならない。

だがCIA分析官のライアン(アレック・ボールドウィン)は冷静だった。その日がラミウスの妻の一周忌であることに着目して彼の意図が亡命であることを察知。上層部に提言して、3日以内でラミウスの真意を証明せよと命じられる。
こうした中、ソ連は大艦隊を派遣して裏切り者のレッド・オクトーバーを撃沈しようとする。同時に本来の敵である米軍も同艦を付け狙う。このままでは第3次大戦が勃発すると判断したライアンは嵐の中、ヘリコプターから米原潜ダラスに乗り込み、ラミウスとの交渉の手段を模索するのだった。
公開された90年はベルリンの壁が崩壊した翌年。2年前の88年にはソ連の警官がシカゴで活躍する「レッドブル」(アーノルド・シュワルツェネッガー主演)が公開された。ハリウッドは冷戦の終焉を予感していたかのようだ。
本作はソ連の軍人が米国に憧れて祖国を裏切るという実に都合のいい設定だが、ライアンがラミウスの腹の内を探るところに謎解きの面白さがある。推理小説のような緊迫感を楽しめるのだ。遥か遠くを航行する敵の司令官の胸中を読み、そこに敵意はなく、それどころかわざわざ投降のために危険を冒したのだと気づくとはさすがは分析官。もしトランプ大統領が分析官だったら、有無を言わさず「撃沈せよ」と命じていただろう。

ラミウスは事前に西側の機関と接触して亡命の意図を通告しているわけではない。彼は仮想敵国の米国にも自分の目的に気づいてくれる優れた人材がいるだろうと見込んで命がけの行動を起こした。また、ライアンも見知らぬ軍人ラミウスが平和主義者であるという自己の推察に賭けた。米ソの幹部が互いの腹を探りながら、大ばくちを打ったことになる。

ライアンがこの件を担当しなければ、レッド・オクトーバーはソビエト軍と米軍に追いかけ回され、へたをすると挟み撃ちで海の藻屑と消えていただろう。そういう意味でライアンとラミウスは戦国時代の秀吉と信長のような奇跡的な巡り合わせであり、この奇跡によって大惨事を回避できたことになる。

本作は軍事的な緊急事態には冷静な判断力が最も重要だという教訓もはらんでいる。日本の政治指導者や自衛隊の“軍人”たちはどこまで分析力を磨いているのだろうか。トランプの言いなりで売りつけられた武器を買いあさってきた安倍政権。そこには平和的思考よりも「軍事優先」の文字が強烈に浮かんでくるのだ。

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