デッドゾーン

戦争礼賛政治家と日本の悲劇

デッドゾーン(1983年 デビッド・クローネンバーグ監督)

この記事は2014年5月27付けの日刊ゲンダイに掲載されたもの。そのまま掲載する。

安倍晋三が2度目の総理になった頃から、この映画が気になっていた。
高校教師のジョニー(クリストファー・ウォーケン)はある夜、交通事故に遭い、5年間の昏睡を経て意識を回復する。彼は特殊な能力を身につけていた。体に触れた人の過去や未来を感知できるのだ。その力で看護師の娘を火事から救い、連続殺人の犯人を言い当て、教え子の命を助ける。
さらに上院議員候補スティルソン(マーティン・シーン)と握手したジョニーは、彼が米国大統領になる未来を感知する。なんと、大統領は大量破壊兵器の発射ボタンを押すのだ。ジョニーは自分が何をすべきか思案する。
本作の製作当時、米国はタカ派のレーガン政権だった。クローネンバーグ監督と米国民は同政権の危険性に気づいていたのかもしれない。
今月15日、安倍首相は集団的自衛権のPR会見を開いた。その夜のニュース番組で、安保法制懇メンバーで集団的自衛権容認派の岡崎久彦(元外交官)という人が武力行使について、「それは総理大臣が決める。総理大臣に立派な人間を選んでおくことが歯止めですよ。もし総理大臣が駄目なら、選挙で選んだ国民が悪いんです」と語っていた。なるほど。民主主義は暗愚な指導者によって国民が生命の危機にさらされることでもあるのだ。
大量破壊兵器の発射ボタンを押すスティルソンは国防長官に指紋認証を命じる。長官が拒否すると、「私は国民の代弁者だ。これは国民の意思だ!」と怒鳴りつける。どこかの首相も以前、似たような発言をしていた。
総理大臣も人の子だ。「やられたから、やり返せ」というタカ派連中にせっつかれてドンパチに踏み切る可能性は十分ある。心の弱さをコンプレックスのバネにして男になりたがる極道や、武器を手にすると人間に使いたくなる変質者みたいなヤカラが総理にならないよう、祈るしかない。悲劇である。

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