内紛、暗殺の果てに裏切られ……
天狗党(1969年 山本薩夫監督)
幕末に暴れ回った水戸天狗党と彼らに関わった男の生きざまを描く。
常陸国の百姓・仙太郎(仲代達矢)は租税の減免を願い出たことで代官の怒りを買い、百叩きの仕置きを受ける。このとき仙太郎は水戸天狗党の加多(加藤剛)に随行していた甚伍左親分から水と銭を与えられることに。自分を痛めつけた北条の喜平を恨む仙太郎は侠客の道に入り、甚伍左と再会。甚伍左の頼みで彼の娘(十朱幸代)に
届け物をした際、乱暴をはたらく喜平の手下を殺害。その場に現れた加多らとともに喜平を斬り殺した仙太郎は天狗党に加わって戦功を挙げる。
その一方で天狗党は内輪揉めをしていた。加多は仙太郎に吉村という同志を斬るよう命令。仙太郎はためらいながらも、吉村の側近となっていた甚伍左の制止を振り切って暗殺を遂げる。無学の仙太郎は何が正義か分からない。冷徹で差別的な天狗党に不信感を抱くが、それでも加多を信じようとする。やがて天狗党は筑波山から進
軍。京都を目指すのだった……。
水戸藩は2代藩主の徳川光圀(黄門)が「大日本史」を編纂したこともあり、尊皇の気風が強かった。その影響から尊攘思想を実践すべく急進グループが結成され、百姓や他藩の侍を加えて数千人の天狗党となった。
彼らは幕府の追討軍と戦ったが次第に劣勢になり、京都を目指したのは徳川斉昭の子・慶喜の協力を得て朝廷に尊攘の意思を伝えるためだった。だが追い詰められ、敦賀で降伏。352人が斬罪される悲惨な結末を迎えた。
天狗党は幕末を代表する悲劇だが、皮肉な面もある。彼らは慶喜に望みを託しながら、慶喜が追討軍を指揮していることを知り愕然とする。なんだか二・二六事件のようだ。決起した皇道派の青年将校たちは天皇の大御心を期待し、天皇の怒りによって銃殺された。
本作の仙太郎は加多たちを疑いながらも、彼らを信じようと努力する。だが天狗党の上層部は我が身を守るために百姓など身分の低い仲間を抹殺する。仙太郎も農民も武士という特権階級に裏切られた。本作を見ると、日本人がだまされやすい民族であることを痛感させられるのだ。