デトロイト

1967年の暴動で起きたリンチと殺しの一夜

デトロイト(2017年 キャスリン・ビグロー監督)

黒人男性が警察官の暴行で死亡したことに抗議するデモが米国やヨーロッパなどで起きている。デモ隊の一部が暴徒化し、トランプ大統領は一時、軍隊の出動まで口にした。米国映画にはこうした差別による暴動を背景にした作品が少なくない。この「デトロイト」もそのひとつ。デトロイト暴動の際に起きた「アルジェ・モーテル事件」を再現した。

1967年7月、退役軍人を讃える式典が催されているミシガン州デトロイト市で、市警察が黒人が集まる酒場を摘発した。店主の逮捕に怒った市民が投石を始めて暴動が発生。そのさなか、パトロール中の白人警官クラウス(ウィル・ポールター)は窃盗犯らしき黒人を背後からショットガンで射殺する。上司は正当防衛でなく「殺人」と判断するが、クラウスはそのまま職務を続けることに。

同じころ、地元出身バンドのラリー(アルジー・スミス)はアルジェ・モーテルにチェックインする。2人の白人女性と出会い、彼女たちの部屋へ。その部屋から黒人の青年が冗談のつもりでスポーツ用のスターターピストルを州兵に向けて発砲。モーテルに白人の警官と軍隊が駆けつけ、クラウスは職質もせずに黒人青年を射殺する。さらにラリーら黒人たちと白人女性を廊下に立たせて「誰が発砲したのか」と厳しく尋問し、白状しなければ一人ずつ殺すと脅す。こうして悪夢の一夜が始まるのだった……。

デトロイト暴動はこの年の7月23日から27日まで続き、アルジェ・モーテル事件は25日の夜に起きた。3人の黒人が警官に殺された。

発端は遊び心の発砲だったが、黒人パワーに怯える警官は若者たちを容赦なく痛めつける。同じ部屋にいたというだけで白人女性を売春婦呼ばわりし、男性を「おまえはポン引きだろ」と罵倒。黒人は仲間の死を嘆きつつ涙で命乞い。白人は表情も変えずにリンチを加える。両者の対比が観客に恐怖を与える演出だ。

警官の中心人物はクラウスだ。黒人の命を虫けら以下と考えるこの男の残忍な性質が周囲の警官に伝染。猫がネズミをもてあそぶがごとき暴力が過熱する。彼らの暴走にミシガン州警察と軍隊は連帯責任を恐れてその場から退散する始末。その結果、尋問という名のリンチがさらにエスカレートする。

クラウスという暴力的なリーダーが一人いるだけで周囲が狂暴化するのはかつての連合赤軍リンチ事件のようだ。彼らはリーダー格の永田洋子に逆らうことができず、「総括」の名目で12人もの仲間を殺した。クラウスはモーテル、永田は山小屋。密室の中に全能感に狂ったサディストが一人でもいれば、理性的な人間までが人殺しに走ってしまう。

なぜこんな事件が起きたのか。ひとつは黒人射殺を殺人と判断されたクラウスを職務に野放しにしたことだろう。また、州警察や軍隊が後難を恐れてモーテルから逃げ出したことも大きい。リンチ集団を止める者がいないのだ。

本作は事件の後日談にもしっかり言及している。現実のクラウスたちはどんな裁きを受けたのか……。

現下のデモで掲げられている「沈黙は暴力」という言葉が胸に響く問題作だ。

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